ポーランド史におけるギェレクの役割

あなたは、全体として言えば、エドワルト=ギェレクが国のためにしたことをどのように評価しますか？

エドワルト=ギェレクが統一労働者党第一書記だった時代は、あなたにとりわけ何を連想させますか？（複数回答）

２００１．８．３〜６　CBOS調査 （N=９６４)
典拠 ： CBOS. Komunikat z badan. BS/108/2001.

＜コメント＞

　２００１年７月２９日、エドヴァルト=ギェレクが、病気のため８８歳で死去した。

　ギェレクは、１９４９年から７０年まで、途中２年ほどを除いて、出身地であるカトヴィツェ県の統一労働者党第一書記を務めたあと、７０年の１２月事件 （食料品値上げに反対する労働者のデモを、警察 ・ 軍隊が弾圧した事件） によって辞任したゴムウカのあとを継いで、党中央委員会第一書記に就任した。

　ギェレクの政策は、痛みを伴う経済システム改革を回避しつつ、西側から借金をし、そのテクノロジーを導入することによって高いテンポの経済成長を図ること、西側諸国との往来にたいする規制を緩和し、国民の消費欲求や文化的欲求に応えることであった。「改革 ・ 開放」 ならぬ、「改革なしの開放」 である。「世俗的なポーランド社会」 をめざしたゴムウカと違って、ギェレクの政策は脱イデオロギー的性格が強く、教会の建設が進んだ反面、高級幹部の富裕化にたいする抑制も外された。このような政策は、７０年代前半には目に見える効果をあげ、国民はポーランドの将来に明るい展望を抱くことができた。

　しかし、その経済政策は、やがて行きづまりを見せるようになる。７６年には再び物価値上げを余儀なくされ、労働者の抗議とそれにたいする弾圧という７０年の事態を繰り返した （ラドム事件）。ただし、弾圧は７０年と比べれば穏やかなものであり、この事件の前後から姿を現わした組織された反対派にたいしても、ドラスティックな抑圧は加えなかった。７０年代の終わりには、経済はついにマイナス成長へと暗転し、あとには巨額の対外債務が残された。こうして、８０年夏のストライキによって第一書記辞任を余儀なくされ、やがて党からも除名される。
　一方、この労働者ストから、独立自治労組 『連帯』 が生まれ、ポーランドは新しい時代を迎えたが、ギェレクはもはや政治に復帰することなく余生を送ったのである。

　少なからぬ人びとが、このようなギェレクの時代を 「古きよき時代」 として懐かしんでいるということは、すでに知られていた。８月３日、生まれ故郷のソスノヴィェツで行なわれた埋葬には、１万２千人が参列している。死の直後に行なわれた世論調査は、ギェレク時代にたいするこのような評価を再確認するものとなっている。

　ギェレクのはたした役割を肯定的に評価している人は５０％に達し、否定的な人は６％に過ぎない。その中間に 「入り混じった感情」 をもつ人が３０％いる。１９８０年に１８歳に達していた人、つまり、自分の直接的経験にもとづいて評価することが可能な人のなかでは、肯定的な評価が６３％といっそう高い。

　ギェレクの時代は、何よりも 「経済成長」 「生活条件の改善」 「世界への開放」「国の現代化」 といったプラスのイメージでとらえられている。同時に、「対外債務」という負の遺産も忘れられているわけではない。それでもなおいい時代だったと思う人と、それだからこそ 「入り混じった感情」 で思い起こさざるをえない人とに分かれるのであろう。

　もちろん、このような回顧的評価は、“いま” についての見方から自由ではありえない。自己の経済状況をよいと考える人のなかで肯定的評価は３６％であるのにたして、悪いと考える人のなかでは６２％である。農民のなかでは７６％までが肯定し、評価の迷いももっとも小さい （１３％）。農民は体制転換の最大の 「敗者」 に属している一方、ギェレクの時代には国庫補助によって支えられた個人農民年金制度が導入されたのである。

　また、何と言ってもギェレクは統一労働者党のトップリーダーだったのであるから、その評価には 「政治的見解」 も反映しないわけにはゆかない。「左翼」 と自己規定する人の７２％までが肯定的に評価し、否定はわずか３％であるのにたいし、「右翼」 層では３６％が肯定、１５％が否定となる。後者では、評価の迷いがもっとも大きい（４２％）。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（２００１．８．２４）

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