他の諸民族にたいするポーランド人 ・ チェコ人 ・ ハンガリー人 ・ リトワニア人の態度

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ポーランド　　２０００．１０．１３−１６　 CBOS調査 （N=１０４８)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　チェコ　　　　 ２０００．１０．２−９　　　 ＩＶＶＭ調査（Ｎ＝９９８）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ハンガリー　 ２０００．１０．５−１６　 　ＴÁRKＩ調査（Ｎ＝１５２４）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　リトワニア　　２０００．１０．１２−１５　 VILMORUS（Ｎ=１００６）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　典拠 ： CBOS. Komunikat z badan. BS/165/2000

＜コメント＞

　この調査は、４ヶ国共同で、被調査者に２５の民族を示し、「好き （sympacja) 」 を７、「嫌い （niechec) 」を１とし て、それぞれにたいする態度を聞いたものである。５〜７が好きに、１〜３が嫌いに、４は無関心に分類されている(ハンガリーでは、かつてハプスブルグ帝国をともに構成したオーストリア人が除かれているが、理由は不明)。
　「○○人」 とは 「民族」 を指すのか 「国民」 を指すのかという問題があるが、「イスラエル人（ユダヤ人）」 という表示が採用されているところからもわかるように、両者の区別はぼかされている。ここでは、国家を持たないロマが含まれていることなどを考慮して、民族と言っておく。

　まえおき的なコメントを２つ。

　まずはじめに、このように、他民族についての好悪を調査し公表すること自体に含まれる問題 (是非） が気になる。「好き」 はともかく、「嫌い」についての調査結果は、特定の民族にたいする差別的感情を 「確認｣し、「定着」 させる効果を持つことはないだろうか。しかし、ポーランドでは、この種の調査がしばしば行われている。

　次に、被調査者は、この種の問いにたいして、どの程度「率直に」 回答するものだろうか？　例えば、「ポーランド人は反ユダヤ主義者か」 がしばしば話題になることがある。反ユダヤ主義はよくないという社会規範の存在することを意識している人が、「ユダヤ人が嫌い」 と回答することを回避しようとする、ということはないだろうか？　問題は違うが、９０年代のはじめに、民主左翼同盟（ＳＬＤ）の実際の得票率が、直前の世論調査における支持率よりも高く出るという傾向が認められたことがあり、ＳＬＤの支持者の一部に、自分のSLD支持の態度を隠そうとする態度があるからだ、と解釈された （今では、ＳＬＤにかんする限り、そのようなことはなくなっている）。

　以上のことを留保したうえで、この調査は、各国における 「ランキング」 と、ある民族にたいする態度の各国間比較という両面から眺めることができる。

　ポーランドの特徴としてまず指摘できるのは、４位までにドイツを除く 「欧米先進国」 が並んび、なかでもアメリカがもっとも好かれている、ということである。欧米先進国の民族が上位に並んでいる点では他の３国も共通であるが、チェコではスロヴァキア人が、ハンガリーとスロヴェニアではスウェーデン人がトップに立っている。ドイツ人については、第２次大戦時に由来する負の遺産のあるポーランド・チェコと、そのような問題のないハンガリー・リトワニアとのあいだに目立った相違がある。

　ポーランドで次いで好かれているグループは、「ヴィシェグラード」 の仲間、すなわちハンガリー人・チェコ人・スロヴァキア人である。この点では、「スロヴァキアのハンガリー人問題」 を抱えたハンガリーで、スロヴァキア人にたいする好感度がやや低めになっていることが注目される。
　
　一方、ウクライナ人・ロシア人・ベラルーシ人という、東部で国境を接した３つの民族にたいする好感度がそろって低いことが特徴的である。この点は、チェコ・ハンガリーでもおおむね共通しているが、旧ソ連の一員であったリトワニアでは、これらの諸民族にたいする好感度がそれほど低くないことも注目される。さまざまな観点から見て類似した位置にあると思われるブルガリアとルーマニアについて、後者にたいする好感度が著しく低いのは、「ルーマニア系」 と見なされたロマにたいするイメージ （ワルシャワでは、一時期、物乞いをする彼らの存在が目立った） が影響しているのであろうか。

　ところで、ポーランド人は 「ロシア人嫌い」 「反ユダヤ主義」 だというステレオタオイプがあり、確かにロシア人 ・ ユダヤ人にたいする好感度は低い。が、各国内のランキングではなく、スコアを横に比較すると、チェコとハンガリーでは彼らにたいする好感度はいっそう低い。
　全体として、ポーランドでは、他民族にたいして嫌いと答える人が相対的に少ないことが見てとれる。そのように見てよいとしたら、なぜだろうか。考えられるひとつの回答は、彼らが民族的により寛容だというよりも、ポーランドでは民族的な紛争が顕在化することが今のところより少ない、という点に求められるかもしれない。

　最後に、日本人については、リトワニアで第３位につけているのが何と言っていも目を引く。杉原千畝の名前が日本人にたいする好感度を高めているとしか考えにくい。そうだとしたら、そのリトワニアで、ユダヤ人にたいする好感度が４国でもっとも低いのは皮肉だとしか言いようがない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（２００１．２．１）

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